竹谷隆之の半世紀と漁師の角度

禍々しくも奇妙なる魔境。『漁師の角度』の世界観は、まさに竹谷隆之の原点回帰そのものであった。作者の人生を辿り、作品の真意を探るロングインタビュー。

幼少時代と阿佐ヶ谷美術学校
--子どもの頃のことをお聞かせください。
竹谷:北海道の積丹町(*1)という漁村で育 ちました。当時は『ウルトラマン』や『仮面ライダー』が始まった頃でしたので、ご多分に洩れずハマりましたね。外で缶蹴りや鬼ごっこ、冬はスキーで夏は家の前の海で泳いでウニ獲り…積丹ではどこにでもいる子どもだったと思います。見た目はかなり弱々しかったですけど。 父親は漁師をやっていまして、夏は海に冬は山へ猟に出ていました。害獣指定された動物の駆除のためとはいえ、目の前でたくさん生き物を殺されましたね(笑)。

--漁師の道に進もうとは思わなかったのですか。
竹谷:痩せっぽちでひ弱だったので、そう考えたことはな いですね。小・中学生の時から自分の父親の船に乗って 漁に出る同級生もいましたが、僕の父親が乗ってる船だと、時にはマグロの尾で弾かれて海に落ちる漁師さんもいましたし、マグロの 頭を叩いて殺す木槌を持ってみたら重くてフラフラだったので、僕には無理だろうと思っていました。

--モノ作りはその頃からですか。
竹谷:子どもの頃は絵を描いたり粘土で何か作ったり、プラモデルをやる程度でしたが、高校では美術部に入りました。初めての一人暮らしを経験するのもこの頃です。最初は寮に入ったのですが門限が5時半と 早すぎだったのであれこれ理由をつけて寮を出まして、下宿に移ってからはやりたい放題でした(笑)。絵は文化祭の時に、B2かB3サイズで1、2枚描いた程度でしたね。

--しかし、そこから阿佐ヶ谷美術専門学校(*2,以下アサビ)に進学されましたね。
竹谷:ホントに何も考えてなかったと思いますが、漠然と絵に関係したことをやりたいと思ってはいたんです。美大も考えてみましたが当然のごとく学科試験がありまして、それまで遊び呆けていたから勉強なんてしていない。それで美術部の先生に相談したところ、「お前、研究所行かないか?」と言われて、どんなところだろう絵の具の研究でもするのかな、と思いながらも流される性格なのでそのまま応じたところ、アサビの学校案内が届きまして…研究所じゃなくて専門学校ですよね (笑)。

--上京したのもその時が初めてですか。
竹谷:そうです。最初に受験の際、空港に降り立った時は違和感絶大でしたねー。 見渡す限り人工物だからなのでしょうか。なんだか匂いも田舎と違ってストレスに感じました。実家だと特に意識はしていなかったのですが、海や植物の香りだけじゃなく、魚やら鶏糞やら…都会では良しとされない匂いも自然に受け入れていたんですが、それとは違う、何が出どころか分からない匂いがして不快に感じました。一時期、環境が変わったためかしばらくの間ジンマシンも出ていましたよ。もちろん今はもうすっかり慣れましたが。

--アサビでの生活はどのような?
竹谷:課題の量が多くてヒーヒー言ってた覚えがありますが、今ほど時間の使い方がうまくなかったせいでしょうね。友達とダラ?っと過ごしていたように思います。あとはひたすらプラモデルを作ってましたかねー。高校まではスケールものばかりだったのですが、当時は『超時空要塞マクロス』 (*3)が始まった頃で、飛行機が好きだったせいもあり、か なり関連プラモデルを買って作りましたね。

--寺田克也さん(*4)と出会うのもアサビの時代ですか。
竹谷:そうです。寺田に限らず、みんなうまかったですよ。自分はそれまでデッサンの勉強もロクにしたことなかったですし、なんか無意識に造形っぽいことに近づいて行きました。今考えると、皆が特化しやすい環境だったのかもしれません。 そうこうしているうちに進級制作でなにかやらなければいけなくなりまして、ガレージキット(*5)の原型を作る、ということにしたんです。その際に選んだのが、僕が高校生の時に見て目が釘付けになった加藤直之さん(*6)の絵が載ってる画集を寺田が持っていて…川又千秋さん(*7)のSF小説『天界の狂戦士』の表紙イラストですね。寺田もこれ作ればいいじゃないか、と勧めてくれたんですが、フルスクラッチ(*8)の経験はなかったんです。そこで芯にしようと買ってきたのが、形状が似てるといえば似ているC-3PO(*9)のキットです。でも形がメ カっぽい人型というだけでそれほど似ているわけではない! 今思うとバカですよねー(笑)。そこにエポキシパテを盛ったり削ったりパーツ貼ったり…無駄に長い過程を経ながら作りました。今なら最初から作ります!

(2013年4月12日) 取材:松田孝宏 撮影:竹谷隆之

プラモが決めた次なる道




■カネヒサ
カネヒサ爺さんこと、相馬伝松。 漁を生業としており、すぐにぶっ放す銃砲 はもちろん、最新機器の取り扱いにも長けている。 寡黙でぶっきらぼうだが、意外と優しい性格の持ち主。
(*1)積丹町:同名の町が『漁師の角度』の舞台となっている。町名はアイヌ語の「シャコクタン」または「サクコタン」が転訛したもの。《夏の村》、《夏の場所》を意味する。

(*2)阿佐ヶ谷美術専門学校:『ALWAYS 三丁目の夕日』で知られる山崎貴監督、その夫人で『アンフェア』などで知られる佐藤嗣麻子監督も同校の出身で、竹谷氏の一年後輩にあたる。

(*3)『超時空要塞マクロス』:1982年に放映が開始されたロボットアニメ。戦闘機がロボットに変形、アイドルが前面に出ることなどで話題を呼び、現在も新作が制作されている。

(*4)寺田克也:イラストレーター、マンガ家。キャラクターやコスチュームのデザインも行なう。『未来忍者』など雨宮作品とも関係が深い。

(*5)ガレージキット:狭義には個人レベルで少数生産される組み立て式模型を指す。近年は採算の取りにくいマイナーアイテムを、大手メーカーが少数生産する例も多い。竹谷氏が最初に手掛けたレジン製の未来忍者は、50個程度が生産され、後にマックスファクトリーからソフトビニール製キットとして発売。

(*6)加藤直之:SF作品を得意とするイラストレーター。ファンには『宇宙の戦士』のパワードスーツデザインで知られる。

(*7)川又千秋:SFの分野で長らく評論、創作活動を行なう。代表作に日本SF大賞を受賞した『幻詩狩り』など。近年は架空戦記も執筆。

(*8)フルスクラッチ:造形材料などを使い、一から作品を作ること。

(*9)C-3PO:『スター・ウォーズ』シリーズに登場した全身金色のロボット。


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